「本物の体験で子どもの心を育てる音楽活動」

「本物の体験で子どもの心を育てる音楽活動」

9月13日卓話要旨

「本物の体験で子どもの心を育てる音楽活動」

NPO法人みんなのことば 代表理事   渡邊 悠子氏

(奥 博史会員紹介)

心や感性を育むのに一番大切な時期は何歳までだと思いますか?実は6歳までで、脳の感覚や五感を司る部分の発達は、20歳を100%とすると6歳まで急カーブを描いて発達し、12歳には100%に達すると言われています。私たち“みんこと”は心と感性を育てる本物の体験を全ての子どもたちに届けることをビジョンにしています。例えば、リンゴの重さや食べると果汁がジュワッと出てくるのを想像できるのは五感が発達している時期に本物のリンゴを持ったり食べたりしたことがあるからで、これが本物の体験です。そこで私たちは、五感をたっぷり使うこと、自由に感じて表現すること、誰かと共感・共有することを子どもの心を育てるポイントとして大切にしています。

私たちの活動は、五感で体感できる参加型のプログラムを通して豊かな心と感性を育てる活動です。今年で15周年になります。10周年までは未就学のお子さん専門に、今は小・中・高や特別支援学校にも音楽会を届けています。音楽会に「静かに聴きましょう」というお約束は一切ありません。自由に反応・表現すること、又、保育園などいつもの場所で、いつもの仲間と一緒に楽しむことを大切にしています。

ある保育園ではお迎えの時間に開催。子どもたちがワーっと盛り上がる中、保護者の方がお迎えに来て、家に帰る前にホッと一息座って生演奏を聴く。我が子が笑顔で楽しんでいるのを見て、「あの音楽が素敵だったね」と会話しながらお家に帰ります。園長先生は「こういう機会を作ることが虐待の抑止力になる」とはっきり仰いました。家庭環境に関わらず体験の機会を届けることができる訪問活動を大切にしています。とは言え施設には体験のための予算はほとんどありません。そこで個人・企業・団体からご寄付や会場提供を頂いて、一人でも多くの子どもたちに、小規模園や障がいがある子どもたちの所にも体験の機会を届けます。年間150〜160公演。未就学や不登校のお子さんたちもたくさんいるので、参加費無料や低料金の親子コンサート等も開催しています。

演奏は本格派のクラシックですが、年齢と発達に合わせたプログラムです。ポイントは3つ。一つ目は、しっかりクラシックの曲を聴いてもらうこと。アイネ・クライネ・ナハトムジークなど馴染みの曲を演奏し、耳を傾けて頂きます。二つ目は園歌や校歌の生演奏。三つ目は演奏に合わせて一緒に歌ったり手拍子をしたり、みんなで一つの音楽を作る・演奏すること。 更にアーティストたちが素晴らしいのです。現在15〜16名。プロの音楽家にもオーディションを受けて頂き、研修もあります。研修のポイントは、五感を使って体験できるよう作曲家のメッセージや音楽の要素を視覚的に伝えること。表情豊かに身体の動かし方も強弱をつけて演奏します。普段スピーカーから聴くのとは周波数も違う大きな音に、反射的に耳を塞いで下を向く子もいます。特別支援学校ではワーっと声が出たり手を叩いたりする子もいます。それも全部お子さんの表現。私たち“みんこと”のアーティストは受け止め目を合わせ言葉ではないコミュニケーションを取り入れながら演奏しています。

NPOとして取り組む社会課題は、文化芸術体験が少ないこと。そして「体験の格差」も広がっています。子どもの心を育てる体験活動に年60億円以上の国家予算がついてますが、対象は小学生以上。一公演あたり300万円位で体育館にオペラが来たりバレエが来たりという中で、私たちは15万円位と機動力が高いです。参加した子どもたちは「コンサートごっこ」をしたり絵を描いたりと、創造性や表現力への刺激が見られます。大人の変化を活動の成果として数値化していますが、保育園の先生など保育者が「新たな気づきやヒントになったか?」に関する事前の期待値は半数以下だったのが、事後には100%の先生方からヒントになったと言って頂きました。15年続けてきた中での専門性を評価して頂けたのではないかと嬉しく思っています。

東京杉並ロータリークラブ様から毎年ご寄付を頂き、杉並区の保育課と連携して区内の保育園で演奏しています。杉並区の後援で区内の子育て支援施設と共催した親子コンサートも大好評でした。10月5日に初めて千代田区でも開催します。BNPパリバグループ様がオフィスを提供して下さり、千代田区教育委員会の後援も頂き、42階からの良い景色を見ながらコンサートをお届けします。よろしければお席を用意しますので、ぜひ子どもたちの反応を肌で感じて頂ければと思います。