「少子化問題を解決する〜働く女性のメンタルヘルス」

「少子化問題を解決する〜働く女性のメンタルヘルス」

5月12日卓話要旨

「少子化問題を解決する〜働く女性のメンタルヘルス」

矢島 新子 会員

(ドクターズヘルスケア産業医事務所 代表取締役)

 私は東京医科歯科大学医学部を卒業後、研修医を経て、公衆衛生博士課程の大学院生の時にロータリー財団の奨学生としてパリ第一大学に留学させて頂き、医療経済学の修士号を取得しました。大学院時代にはWHOのヘルスプロモーションのコンサルタントとしてラオスで活動しました。その後、保健所勤務し、今は心療内科と公衆衛生をバックグラウンドに産業医事務所を開業しております。RI第2580地区では危機管理委員を拝命しており、先日も青少年留学生の緊急対応として診察をさせて頂きました。

 本日は少子化問題について私自身の経験をお話します。留学当初は、家庭を持ちながら公衆衛生分野の研究職を海外の大学研究所でやりたいと思っておりました。フランスにいると可能に思えたのですが、日本に戻ってみると子供を預ける保育園がなかなか見つからないことに加え、医師という職種は各職場に一人しかいないことが多く、且つ、本当にやりたい調査・研究は出張もあるため、小さい子供を抱えている身では断念せざるを得ませんでした。子育てに優しいと勧められた保健所勤務でも保育園が見つからず苦労しましたし、ようやく預けられた託児所からは、熱が出たと頻繁に電話がくる。そしてまた3歳以降の預け先を探さなければいけなくなり、引っ越しの繰り返しでした。その頃、ポーランドでは女性の個人事業主が多いと聞き、個人事業主であれば、職場に連れて行ってベビーシッターを雇うなど融通が利くと考え、独立する道を選びました。年に3日程度しか休めない日々でしたが、その分収入が増え、ベビーシッター等の費用に回すことができました。

 そんな中、産業医としてはメンタルヘルスの重要性に気づき、なんとか勉強をしたいと思い、東京女子医大にある再教育センターで、精神科を学ばせていただきました。周囲には30代で博士号まで取得したのに、なぜわざわざ新しいことを始めるのかと不思議がられましたが、今ではこの経験のお陰で15年のキャリアが出来ました。これだけの間続けていますと、様々な分野でベテランとして活躍することができ、講演や企業研修の場などにもお誘い頂く機会も多くあります。一時はテレビやラジオ番組にも出演させて頂きました。また、次年度は一年間『ガバナー月信』に連載をさせて頂くことになりました。例えば男性の40歳というと、仕事では上の立場にあることが多いと思いますが、女性の場合は、育児などによる『中断』があるため、いつでもスタートラインに立つつもりで、再起を諦めないことが大切だと感じます。

 最近、産業医として、実際に女性社員と面談して思うことは、働くことを幸せだと思っているのか、精神的健康に繋がっているのかということです。日本では、2012年以降にはストレスを感じる女性が男性よりも多くなったという統計があります。実際に研究で明らかになっているのですが、男性は収入や学歴が高いほど精神的健康が高くなりますが、女性の場合そこに相関関係が見えません。

 日経新聞のコラム「春秋」でも引用していただきましたが、私が書いた本『ハイスペック女子の憂鬱』の中でも挙げた「復職恐怖症」というものがあります。産休・育休制度が会社に設けられていたとしても、子供がいるという、昔の自分とは違う状況で仕事に戻ることに不安を抱いてしまうものです。とはいえ楽な仕事を探そうにも、全然違う仕事内容で、自分が必要とされていない不安を感じるなど、復職には色々な問題が絡むものなのです。

 女性と男性には、生物学的な違いと心理社会的な違いがあり、女性の心身の健康に大きく関わってきます。更年期時期の女性ホルモンの落ち方はジェットコースターで、緩やかに低下する男性ホルモンとは全く異なります。また産後、月経時も急激に低下し、メンタルヘルスに強い影響を及ぼすのです。社会的には、現代の女性は、学歴、綺麗であること、キャリアも家事・子育ても完璧を求められる傾向が強く、これらに追い込まれ、メンタル不調に繋がってしまうことも増えています。働くことが自己実現から社会的要請になりつつある現在、会社や社会のサポートがより重要です。欧米的な「差別はいけないから全て同等に」という話になりがちですが、各人の価値観やその国の文化的背景を考慮したうえでのサポートが必要だと考えます。