「失敗しない老人ホーム選び」

「失敗しない老人ホーム選び」

2024年5月24日卓話要旨

「失敗しない老人ホーム選び」

(社)有料老人ホーム入居支援センター 代表理事(東京RC会員)

上岡 榮信 氏

(児玉正孝会員紹介)

 私は長くフリーの英語通訳をしています。企業や厚生労働省の海外視察では老人ホームだけで60回、21カ国約700ヶ所を見てきて、それを機縁に60歳で社団法人を立ち上げました。日本では、いざという時に正しい施設に出会うことが難しいからです。私共の特徴は入居される方とそのご家族の目線で良いか良くないかを見ることで、老人ホームからは一切お金や謝礼を貰っておりません。日本で唯一、利用者や消費者の方から相談料を頂きます。一緒に見学し、契約にも立ち会い、入居後3年間フォローします。入居した施設の費用約一カ月分を頂きます。

 日本には55,000の老人ホームとその運営会社が17,000社あると言われています。そのうち4,075カ所を見て1,400社を格付けしました。月9万円から、高い所は夫婦で2~3億円のホームも紹介できます。『安心・快適 高齢者施設ガイド2022』を出版。120社300の施設をリストにしてあります。有効期限は1年ですが参考にして頂き、2時間無料の面談をしております。

 失敗しないホームの選び方ですが、失敗するのは選ぶ基準がないからです。素人が老人ホームを見分ける方法は5項目。一つは従業員の数。看護師、介護職員、食事を作る人、受付、営業、運転士、清掃員、アルバイトでも何でも、とにかくお給料を払っている人が何人いるか。良い経営者は良心的にたくさん人を雇っています。私の基準は入居者50人に対して従業員40人以上。日本で一番従業員が多い所は、入居者50人に対してスタッフ80人。こんなに雇ったら赤字で潰れると思われるでしょうが潰れません。黒字経営で入居者は口コミで来るし従業員も辞めません。次に食事が自前か外注か。何百万円も払ったのに、外注のため、夜お腹が空いたまま寝なくてはならない侘しさ、厳しさ。人間性も尊厳もないです。老人の三大要素は食事と運動と人間関係(人との触れ合い)。

 入院すると歩きませんから、筋肉が衰えて1週間で歩けなくなり、人との触れ合いがないので認知症が酷くなります。だから大事なのは食事と人数です。

 認知症のケアや看取りのケアが良いことは、その次です。認知症のケアができると言いながら「怒鳴ったり杖を振り上げたりする」と話すと、他の方に迷惑だから一度精神科に行くようにと大抵は断られます。一方で「何もないのに暴力を振るう人はいない。怒っても物を壁に投げつける位。相手を傷つけるのは本当に精神病だから、その方は断る。伝染病の方も。それ以外は誰でも受ける。」という経営者もいます。

 決して諦めないで、どんな方でも受け入れる施設を選ばれた方が良いです。看取りケアは訪問診療の医者次第です。延命治療を断って点滴か痛み止め程度で良いと言えば、それを素直に聞き、症状の変化だけ的確に家族やスタッフに伝えて見送ってくれる医者がいる所なら良いですが「最後にもうひと稼ぎ」という医者は多いです。そして一番は経営者の人間性・人柄です。黒字経営だけれど利益はあまり望まず、入居者と家族が満足して従業員が一生懸命働いているのが良い経営者の施設です。経営者を見る観点は、哲学、宗教観、倫理観、死生観、それと加齢に対する理解ですが、短時間では見抜けません。末端のスタッフのやる気と責任感を見ます。経営者が変わった途端駄目になることは非常に多いので一年しか有効ではありません。

 お勧めホームの見分け方について。経営者、施設長、スタッフ、全員が介護に向いた人でないと困ります。人を揃えないと運営できないから向いていない人でも雇ってしまう法人の問題があります。食事が出るか、夜勤や当直がいるかを電話で聞いて見極める方法もあります。最近は部屋で自炊する所や、夜間は緊急通報でセコム等に繋がるという施設も多いのですが、これでは入居する意味がありません。

もう1つ構造的な問題としては、行政の基準では、食事の提供は自前調理でも、外注でも良いことになっているため、食中毒のリスクや利益を出すことの難しさから、外部委託を選ぶ事業所が多いのが実状です。それと、介護が必要な人3人に、介護のプロを1人つけるという基準、これでは労働基準法に基づく、労働時間、休暇、シフトの確保も不可能という現場の専門家の意見もあります。また、多くの介護事業の経営者も3:1の人員配置では入居者や家族の納得、満足を得ることは不可能に近いという意見も少なくないのです。選んだ施設において、不当な扱いや、不満足な介護サービスを受けたからと言って訴訟しても、介護の現場では、大抵、証拠書類や、証人も挙げることがかなわず裁判で勝てる確率はゼロに近いのが現実です。