「エンジョイベースボールとスポーツ新時代」
2024年6月21日卓話要旨
「エンジョイベースボールとスポーツ新時代」
香川オリーブガイナーズ球団代表 上田 誠 様
(新 健一会員紹介)
世界一、使い回しができない職業、教員をやってきました。慶應高校で監督を、留学を挟んで大学でヘッドコーチをやりました。今、子どもの野球人口が減っています。この十年で、神奈川県では2000チームが500チームに、社会人野球も全国200チームが50チームになってしまいました。西武ライオンズにいた石毛さんが四国に作った日本初の独立リーグ「アイランドリーグ」を手伝っています。教え子が、地方と野球を結び付けおうと起業し、「伝説を作ろう」と香川で奮闘しており、私も一緒に営業しています。
スポーツを取り巻く環境が大きく変わりました。YouTubeを見て「ダルビッシュはこう言ってます」と人の話を聞きません。判定は画像で可視化・数値化しないと信用されない時代になりました。eスポーツに見られる多様化、そして、AIとスポーツが身近なものになるのも、もうすぐです。
「エンジョイベースボール」の慶應高校が甲子園で優勝しましたが、慶應は亜流。主流は野球道の中での修行のような野球です。江戸時代後半、日本に野球が入ってきました。大正時代には師範学校から全国に広がり、全国大会が年に12回も開かれるなど人気が過熱。武士道ともリンクしてしまって修練や精神主義などが生まれたのではないかと思います。それでも昭和初期の野球は自由で髪の毛も普通、のんびりとして上下関係も緩く、欧米のスポーツを満喫していたようです。軍隊式の野球が導入されたのは戦後です。仕事が無かった戦地からの復員軍人が大学のスポーツ指導を始めたことで、絶対服従や行進・上下関係・自己犠牲といった軍隊の考え方や倫理がスポーツ界に落とし込まれたのです。昭和初期、慶應OBで日系人二世の腰元寿氏は慶應の監督時代に「エンジョイベースボール」を提唱。それを広めた故前田祐吉監督の口癖は「スポーツ界の常識はおかしくないか」でした。
私たち昭和の指導者も常識をぶち壊そうとしていますが、実は昔の方が自由だったということが結構あります。最近は「パワハラ」「カスハラ」数々あります。「ハラハラ」はハラハラドキドキではなく「ハラスメントハラスメント」のこと。ハラスメントの訴えに病んでしまうのです。野球にもコンプライアンスとインテグリティが求められています。中でもパワハラには敏感です。厳しい指導が愛という時代がありましたが今は許されません。一方、言葉の暴力が増えて陰湿になっています。大事なのはコミュニケーション、黙っている選手にも意見があります。
子どもが野球から離れています。中学は少子化の4.5倍で減少、高校野球は毎年1万人ずつ減っています。スポーツ障害も問題です。トーナメントばかりで、みんな故障しています。教員の過労死も問題です。平日は部活動を指導してもいいけど、休日は地域に任せなさいという話です。といって、他校と合同チームを作ろうとしても地方は隣の中学まで50㎞なんてこともあるので出来ません。野球が一部の子どものためのスポーツになってしまうのではないか懸念されます。
日本の野球界は団体が乱立してバラバラなので振興が苦手です。それに比べてサッカーはシンプルでJFAハウスに行くと全部用事が足りてしまいます。他競技は地域貢献活動を凄くやっていて、10チームだったJリーグは50チームになったし、出来たばかりのBリーグも全国にチームが増えました。 野球も地方にプロ野球を作る動きがありますが、60億円の委託金や12球団のオーナーによる全会一致が必要など厳しい現実があります。
最後に、後継者育成について。野球部で上手く指導者が引き継いだのを見たことがありません。長くやっていた監督がいきなりポンと変わるものの、OBを通じて圧力をかける、といった風土が日本のスポーツ界にあると思います。個人的な意見ですが、いきなり交代が一番駄目。並走期間は重要ですが、後継者が歳を取ってしまうのでなるべく早く譲った方が良い。そして、譲ったら口は出さない。相談に乗って下さいと言われたら出るくらいです。
新時代に入りました。ハラスメントの規制が多く、ICTの進歩に人間関係の構築が難しい。子どもが丁寧に育てられているので、今の若い子と一緒に仕事をするのは難しい。人材はすぐ辞めてしまい国際化・中途採用も当たり前。世界中の情報が簡単に手に入るという大変な時代になってきました。私はというと「巨人の星」です。昭和の根性を教える人間がいても良いのではないかと思う次第です。