「日本人も意外と知らない“日本酒”の話」
松本 宗己 会員
(土佐酒造株式会社 代表取締役)
先ずは、日本人も意外と知らない「日本酒」の話をさせていただきます。皆さん「日本酒」の定義をご存知でしょうか?これが面白いことに法律に基づき指定されていて、「日本酒」とは、原料に「日本産米」を用い、日本国内で醸造した「清酒」に対して使うことが出来る呼称ということになっています。したがって、外国産のお米を使ったり、外国で製造したりした「清酒」は「日本酒」と呼んではいけない決まりになっています。大昔からそうなのかというと、実は案外最近の話で、今から7年ほど前にそう決まりました。
これには歴史がありまして、今から10年ほど前に、日本とEUが相互の関税撤廃を図って経済を活性化しようと、経済連携協定の交渉を始めたのですが、その過程で、EUの地理的表示である「ボルドー」や「シャンパーニュ」といった原産地呼称を日本国内でも保護しなければならないということになりました。それに対して当時の日本にはEU側での保護を要求する原産地呼称がほとんど無くて恰好がつかないということで、お酒や農産物の地理的表示(Geographical Indication)制度が急遽整備され、その頃に「日本酒」という言葉も国により定義されたわけです。
もう一つ、酵母の話をします。酒造りにおいて、最もたくさん仕事をしているのは誰なのかと言うと、蔵人達も頑張ってくれていますが、一番大勢かつ長時間働いているのは酵母菌です。顕微鏡を使うと実際に見ることが出来るのですが、野鳥の会みたいに数えてみると、お酒の醪には1グラムあたり、平均して1億5千万個くらいの酵母が働いているということが分かります。うちの酒蔵では、1~1.3トンくらいのお米を使って、3~4千リットルくらいの醪を仕込んでいるのですが、計算すると1つのタンクの中では約500~600兆個の酵母が働いているということになります。日本の国家予算くらいだと思えば、分かり易いでしょうか。酒蔵では毎日、蔵人の言うことを聞かされて、600兆もの酵母たちが24時間体制で休まず働いてお酒を造っているというわけです。
今日は卓話ですので、ロータリークラブと私の酒蔵にまつわる話もあります。実は私が酒蔵をやるようになった経緯には、当クラブの会員である井上さんも関係があります。神田ロータリークラブに入会した頃、私はコンピュータソフトウェアの会社をやっておりまして、お酒など造ったこともなかったのですが、井上さんと仲良しの齋藤さんというワイン仲間の大先輩と食事をしている時に、「ワインだと特定の産地のブドウにこだわったもの評価されている。そういう日本酒を飲んでみたいので紹介してほしい。」と言われたことがきっかけです。その時はすぐにお答えできず、家に帰って調べてみたのですが、当時そのようなコンセプトの日本酒はごく少数しか見当たりませんでした。その時に、やっている人も少ないから、これをやったら面白い!と思いました。昼に飲んだワインのせいか、その日のうちに先代社長へ電話をかけてお願いし、酒蔵を譲ってもらうことになりました。
そのような経緯で酒蔵をやるようになったものの、当時の私は酒造りについては本に書いてあることしか知りませんでしたので、実地で教えてくれる先生を探していたところ、酒造りの世界でミスター大吟醸と呼ばれる先生に辿り着きました。昔、国税局に居た方なので、先代の時代の酒蔵のことも良くご存知で、2回お願いして断られましたが、偶々その先生が龍野ロータリークラブのメンバーだということが分かり、3回目は兵庫県までメーキャップに押しかけたところ、根負けしたと引き受けていただけることになりました。こんなところで、ロータリーバッジが活躍するとは、思ってもみませんでした。
最後に日本酒に関するコンクールの話です。私はお客様に飲んでいただく機会が殆どないようなお酒よりも、普段から飲んでいただいている製品の品質を大切にしたいと思っているので、世界で行われている市販酒を対象としたコンクールに参加しています。フランスの「Kura Master」や、英国の「International Wine Challenge」等です。昨年は運良く、多くの賞をいただくことが出来ました。一番出品数が多い、英国のInternational Wine Challengeでは、酒蔵毎の総合得点のようなものがあり、7年前までは純米大吟醸も造ったことのない田舎の酒蔵だったのですが、上位3位に入ることが出来ました。今年も頑張って美味しいお酒を皆さんにお届けできればと思っております。